彗星 - リック・バス

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モンタナ州北部、カナダとの国境沿いにある谷。おそらく40人か50人ほどの住人が暮らすその谷は、森の奥深くにあり、世界から50年遅れているように感じるほどだ。

谷の住人たち(隠居人、猟師、罠猟師、庭師)は、1ヶ月間毎晩彗星を見続け、星々の中に彗星があるのを見慣れ始めたところだった。今は、もういなくなってしまった。その住人たちは、彗星が数千年かけて消滅する前の、まだ彗星を見ることができる最後の夜に、彗星に別れを告げることにした。最後の夜、地球から見えなくなる前に、彼ら今世紀最後の重要な彗星を見るだろう。

その日の夕方、気温はまるで高いところから落とされた石のように下がっていた。雲や霧はどこにもなく、日没時には-9度以下。真夜中、谷に住んでいる男や女、子供も集まった。その時点で気温は-16度を下回り、日が暮れる前には-24度まで下がった。子供たちは親に起こされ(あるいはその夜のことを忘れないように夜更かしをし)、馬そりに乗って凍った地面を越え、ヘンズレー山の頂上まで古い細い小道を登っていった。両側から灌木や苗木が押し寄せ、彼らは一列になって山を登っていった。大変な登山だったが、馬は汗をかかなかった。そりは3台で、大人は12人。子供も同じくらいいた。彼らはヘラジカの皮で包んでストーブで温めた石を膝の上や馬車の床板に載せて運んでいた。時折、木々の間から彗星を見ることはできたが、山の頂上に着くまで、彗星が地平線のはるか彼方、真北にあることまでははっきりと分からなかった。この気温では、

そりが山の頂上に着くと、村人たちは毛布から出て馬の間に立ち、彗星の美しさを眺めた。この気温では、雪は水銀のような色をしていた。とても寒かったため、頂上の雪は凍らず、砂のようにサラサラしていた。彼らは膝まで雪に浸かり、手袋をはめた手でその雪を拾い上げ、彗星に向かって空に放り投げた。キラキラと輝く雪を見ていた。

彗星の尾がはっきりと見えた。たくさんの星の中にあって、それは特別なものに見えた。ぼんやりとして落ち着きがなく、普通の星よりもそれほど大きくはない。村人たちは、尾からゆっくりと光が散るのを見ることができた。

村人たちは凍えながら馬に体を押し付けていた。谷の下には明かりがなく、寒さは強大な力を持っていた。実体も力もないガラスのように、村人たちを壊してしまいそうなほどだった。彗星に近いのと同時に、高いところにいるのは怖かった。

30分も経たないうちに、出発の時が来た。それ以上は寒さに耐えられなかったのだ。「最後にもう一度見てごらん」両親は子供たちに言った。「本当に見えるの?」

子どもたちはそう言いながら空に目を移した。子供たちは、他の星のようなものの中から簡単にそれを見つけた。中には、彗星の中に笑った顔や目が見えると言いだした子供さえいた。

大人たちは、子供たちがいかにはっきりと彗星を見ることができ、どれほど興奮しているかに驚嘆した。大人たちは、子供たちが彗星を小さくて取るに足りないものだと思っているのではないかと心配していたのだ。彗星というのは普通の星よりも少しぼんやりしていて、それほど大きくもなく、空全体から見ればちっぽけなものだ。しかし子供たちは、彗星をまるで今まで見たこともないような大きな星であるかのように見ていた。まるで少年天文学者のようだった。大人たちの中には、自分たちが人生に対して無神経になっているのではないかと深く疑念を抱く者もいた。血と汗にまみれた生活の中にいるにもかかわらず、彼らの内面はどこか固まってしまっている。大人たちは驚きと安堵、さらには立派だとも思ったが、子供たちのように純粋な喜びを呼び起こすことはできなかった。

次の夜には彗星はいなくなってしまい、次の日には青空の下でさえ、村人たちは彗星を恋しがっていた。村人たちは家事をこなしながら、次に彗星が通過する時は自分たちがいなくなっているとは信じられない様子だった。彗星が自分たちの谷を一周していた1カ月間、彼らはこの奇跡はずっと続くだろうという考え方になってしまっていた。マイナス40度。黒い夜と金色の星の海。村人たちはそりに身を寄せ、互いに暖を取り合った。岩はまだ熱を保っていたが、村人たちはその熱をまったく感じることができなかった。毛布を被っても暖かくならない。そりの底には干し草が敷いてあり、そこに足を突っ込むようになっていた。そりの中で彼らはランタンに火を灯し、順番にランタンを回して顔に当てて暖を取った。それぞれの顔が一瞬オレンジ色に輝き、色のない唇からは白い息が吹き出した。そして、歯がガタガタ震える音がランタンの受け渡しを要求する合図となる。馬たちは順調に下山し、来た道を突っ切っていった。そりが雪の上を滑る音と、馬具のベルが鳴る音と、凍りついた木々が雷のようにひび割れる音だけが響いていた。上空では、彗星は高速で、しかし静かに移動し、永遠に未来へと遠く深く沈んでいった。

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Comet - Rick Bass